【補語という用語に注意しましょう】
さて、今回は目的補語とそれに基づく動詞のタイプの話をするのですが、その前にちょっと断っておきたいことがあります。それは「補語」(complément) という用語についてです。第9講でも少し触れましたが、英語の「補語」(complement) という用語と混同しないようにしてください。英語では次の例 (1) や (2) のようにbe動詞の後に置かれた形容詞・名詞を主格補語と呼びます。(フランス語ではこれを主語の属詞 attribut du sujetと言います)また (3) (4) のように目的語にかかる形容詞・名詞を目的格補語と呼びます。(フランス語では直接目的補語の属詞 attribut du complément d’objet directと言います)
(1) Peter is tall. ピーターは背が高い。
(2) Jane is a pilot. ジェーンはパイロットだ。
(3) He found the book interesting. 彼はその本をおもしろいと思った。
(4) They made their son a doctor. 彼らは息子を医者にした。
一方、フランス語で補語と呼ばれているのは、文の主語・動詞・属詞以外の名詞要素です。(5)の直接目的補語、(6)の間接目的補語、(7) (8) の状況補語があります。
(5) Nicole a acheté une robe bleue. ニコルは青いドレスを買った。
(6) Je pense aux vacances d’été. 私は夏休みのことを考えている。
(7) Il se promène dans le jardin public. 彼は公園の中を散歩している。
(8) Mes parents resteront une semaine. 両親は2週間滞在する予定だ。
また「補語」という用語に与えている意味が英語とフランス語でちがうことにも注意しなくてはなりません。英語の「補語」には次のような意味がこめられています。
「動詞の中には、I am △.(私は、△である)とか、They made Bill △. (彼らは、ビルを△にした)のように、主語または目的語と結びついただけでは完全な意味を表すことができないものがある。(…)これらの文は、△の位置に、それぞれ happyとか their leaderとかを補ってはじめて、文意が完全になる。(…)このように、主語または目的語について、それが『何であるか』、あるいは『どんな状態にあるか』を述べて叙述を完全にする語句を補語 (complement, C)と言う。」(注1)
上の引用からわかるように、英語でいう「補語」とは、それなくしては完全な文にならないどうしても必要な要素をさしています。これにたいして、フランス語の補語は多くの場合、それがなくても文として成り立つが、あればさらに文の意味がはっきりするものをいいます。
(9) Paul travaille dans cette usine. ポールはこの工場で働いている。
(10) Le mur du voisin est couvert de lierre. お隣の塀はツタで覆われている。
(9) のdans cette usineは状況補語で、これがなくても Paul travaille.だけで文として成り立ちます。dans cette usineは「どこで」という情報を付け加えています。また (10) の du voisinは名詞の補語と呼ばれていて、これを省いても Le mur est couvert de lierre.は文として成立します。du voisinは「どの塀か」という情報を付け加えています。このように同じ「補語」という用語を使っていても、フランス語と英語とではその意味がちがっているのです。
【直接目的補語と間接目的補語】
目的補語には直接目的補語 (complément d’objet direct) と間接目的補語 (complément d’objet indirect) があります。(11)のように前置詞なしで動詞に続くのが直接目的補語で、(12) (13) のように前置詞を挟んで動詞に続くのが間接目的補語です。
(11) Clarisse conduit une voiture allemande. クラリスはドイツ車を運転している。
(12) J’ai téléphoné à une agence de voyage. 私は旅行代理店に電話した。
(13) Nous doutons de ta sincérité. 私たちは君の誠実さを疑っている。
前置詞があるかないかで区別できるのではっきりしています。フランス語には英語のような二重目的語構文はありません。英語のI gave Peter a necktie. 「私はピーターにネクタイをあげた」では Peterが間接目的語で a necktieが直接目的語ですが、どちらにも前置詞なしの名詞なので、見た目では区別できません。しかしフランス語ではこういうことはなく前置詞の有無で区別できます。
【動詞のタイプ】
動詞のタイプ分けは目的補語の取り方に基づいて行われています。
まず目的補語をまったく取らない動詞は自動詞 (verbe intransitif) と呼ばれています。intransitifというのは、動詞が表す動作・行為が主語以外のものに及ばないという意味です。たとえば次の例の動詞は典型的な自動詞です。
(14) Les enfants dorment dans leur chambre.
子供たちは寝室で眠っている。
(15) Quelque chose a bougé dans la cuisine.
台所で何か動いた。
直接目的補語を取る動詞を他動詞 (verbe transitif) と呼びます。transitifというのは、動詞が表す動作・行為が目的補語の表す事物に直接に及ぶという意味です。
(16) Jean a mangé une banane.
ジャンはバナナを食べた。
(17) J’adore les films d’amour.
私は恋愛映画が大好きだ。
とは言っても動詞が表す動作・行為の及ぶ程度はさまざまです。(14)ではジャンがバナナを食べればバナナはなくなってしまいます。しかし (15)では私が大好きだからといって恋愛映画が何か変化するわけではありません。mangerは他動性 (transitivité) が高い他動詞で、adorerは他動性が低い他動詞です。
間接目的補語を取る動詞を間接他動詞 (verbe transitif indirect) と呼びます。動詞が表す動作・行為が目的補語が表すものに間接的に及ぶとされているので、このような呼び名があります。
(18) Il ressemble beaucoup à son grand-père.
彼は祖父にとてもよく似ている。
(19) Il a abusé de la naïveté de Pierre.
彼はピエールの世間知らずにつけこんだ。
(20) Je compte sur vous.
私はあなたを頼りにしています。
間接目的補語に付く前置詞は (18) のように à がいちばん多いのですが、(19)のように deや (20)のようにsurが使われることもあります。
このような動詞が間接他動詞と呼ばれている理由は、動詞だけでは意味が完結せず、目的補語が必要だからです。たとえば ressembler「似ている」はそれだけでは使うことができず、à 〜「何々に」という間接目的補語がなくてはなりません。間に前置詞を挟んでいる分だけ、動詞の表す動作・行為が目的補語に及ぶ度合いは低くなりますが、間接目的補語がなくては動詞の意味が完成しないために間接他動詞と呼ばれています。
しかしこのような動詞の分類の仕方に問題がないわけではありません。たとえば (20) のcompterという動詞は、(21)のように自動詞としても (22) のように他動詞としても使うことができます。
(21) Cet enfant sait compter jusqu’à dix.
この子は10まで数えられる。
(22) Elle a compté les élèves.
彼女は生徒の数を数えた。
そうすると辞書の compterの項目には、「自動詞」「他動詞」「間接他動詞」の三つの用法を挙げなくてはならず、とても複雑になってしまいます。このような煩雑さを避けるために、間接他動詞という部類を認めず自動詞とする立場もあります。
また間接他動詞の中で目的補語を必要とする度合いにもちがいがあります。上に挙げた ressemblerはà 〜「何々に」がないと使えません。しかし penser「考える」や croire「思う、信じる」は目的補語がなくても使えます。
(23) Il pense à son projet d’avenir.[目的補語あり]
彼は将来の計画のことを考えている。
(24) Je pense, donc je suis.[目的補語なし]
我思う、故に我あり。(デカルト)
(25) Elle croit en Dieu. [目的補語あり]
彼女は神を信じている。
(26) Pierre est là ? — Oui, je crois. [目的補語なし]
「ピエールはいるかい」「うん、いると思うよ」
(24) や (26) のような目的補語のない間接他動詞と、Il dort.「彼は眠っている」のような自動詞とどこがちがうのかということを問題にする人もいるでしょう。
(24) や (26) のように目的補語を取らない使い方を絶対用法 (emploi absolu) と呼ぶことがあります。他動詞にも絶対用法があります。
(27) Hélène lit beaucoup.
エレーヌは読書家だ。
(28) Il faut manger pour vivre.
生きるためには食べなくてはならない。
また自動詞も稀に直接目的補語を取ることがあります。
(29) Il dort un sommeil paisible.
彼は安らかな眠りを眠っている。
目的補語のsommeil「眠り」はdormir「眠る」という動詞の意味に含まれているので、このような補語を同族目的語 (objet interne)と呼びます。このように自動詞・他動詞・間接他動詞というタイプ分けは絶対的なものではなく、タイプの境界を越えることもあります。
【代名動詞のタイプ】
フランス語には se promener「散歩する」のように再帰代名詞seが付いた代名動詞 (verbe pronominal) と呼ばれるものがあります。あまり教えられてはいませんが、代名動詞にも自動詞・他動詞・間接他動詞の区別があります。再帰代名詞のseの大部分は直接目的格なので、いちばん多いのはそれ以外に目的補語を取らない自動詞的な代名動詞でしょう。
(30) Clarisse s’est reveillée tôt le matin.
クラリスは朝早く目覚めた。
(31) Ill se promène dans le jardin public.
彼は公園を散歩している。
間接目的補語を必要とする間接他動詞的な代名動詞も少なくありません。
(32) Je me souviens de cet événement.
私はこの出来事を覚えている。
(33) Mon fils s’intéresse à l’astrologie.
息子は天文学に興味がある。
少数ながら直接目的補語を取る他動詞的なものもあります。この場合、再帰代名詞seは間接目的格になります。
(34) Mon frère s’est procuré une nouvelle voiture.
兄は新しい車を手に入れた。
(35) Je ne me rappelle plus son prénom.
彼(女)のファースト・ネームが思い出せない。
(注1)安藤貞雄『現代英文法講義』開拓社、2005.