「フランス語100講」こぼれ話 (1)

 私が大学生の頃、通っていた関西日仏学館(現 Institut français du Kansaï)でニコラ(Nicolas)君というフランス人の少年と知り合った。ニコラ君はふだんは東京の九段にあるフランス人学校(lycée français)に通っているのだが、夏休みで京都に滞在していたのだ。

 ある日のこと、ニコラ君は私にクイズを出した。

 

─ Quel est le plus long mot du français ?

 「フランス語でいちばん長い単語はな〜んだ?」

 

 私が「知らない」と答えると、ニコラ君は肺に空気を一杯吸い込む仕草をして、得意そうに言った。

 

─ Anticonstitutionellement.

 

 これは「憲法に違反して」という意味の副詞である。議論好きのフランス人ならば、ここで「いちばん長い」の定義をめぐって議論が起こるところだが、ここでは「いちばん文字数が多い」としておこう。この単語は25文字ある。どうやらフランス人の間ではこれがいちばん長い単語だということはよく知られているらしい。ただし「現行の辞書に載っている単語の中では」という条件が付く。

 最近では無理やりひねり出した感のあるintergouvernementalisations「政府間交渉化」(27字)がいちばん長いとする意見があるらしいが、こちらはまだ代表的な辞書に採用されていない。

 何の役にも立たない情報もうひとつ挙げておこう。フランス語には単数形で男性名詞だが複数形では女性名詞になる単語が3つある。

 

─ Quels sont les trois mots qui sont masculins au singulier et féminins au pluriel ?

 

 答は amour「愛」、délice「歓喜、恍惚」、orgue「オルガン」である。ただし、amour は mes premières amours「私の初恋」のように恋愛を意味する場合に限られる。また複数形の orgues は教会などにある大きなパイプオルガンを指す。朝倉文法事典には Cette cathédrale a de belles orgues.「この大聖堂にはりっぱなオルガンがある」という用例がある。また amourと orgue は載っているが délice についての記述はない。M. Grevisse / A. Goosse, Le Bon usage (Duculot, 12e éditon) を見ると、déliceは単数では男性で複数では女性だとちゃんと書かれている。知っていても何の役にも立たないが、座興でクイズにするにはよいかもしれない。